東京高等裁判所 平成9年(行ケ)114号 判決 1999年3月24日
アメリカ合衆国20877 メリーランド州、ガイサーズバーグ、
インダストリアル ドライブ 16020
原告
イゲン インターナショナル、インコーポレイテッド
代表者
リチャード ジェイ マッセイ
訴訟代理人弁理士
浅村皓
同
山本貴和
同
森徹
同
小池恒明
同
岩井秀生
同
岩本行夫
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
柏崎康司
同
市川信郷
同
飯野茂
同
後藤千恵子
同
小林和男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成6年審判第21620号事件について、平成8年12月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1988年4月28日にアメリカ合衆国でした特許出願に基づく優先権を主張して、平成元年4月28日、名称を「電気化学ルミネセンス現象の複数の同時測定を行う装置」(その後、平成6年6月14日付手続補正書により「電気化学ルミネセンス現象の複数の同時測定を行う装置および方法」と補正された。以下「本願特許発明」という。)につき、特許出願(特願平1-505273号)をしたが、平成6年8月25日に拒絶査定を受けたので、同年12月26日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を、平成6年審判第21620号事件として審理したうえ、平成8年12月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成9年1月13日、原告に送達された。
2 本願特許発明の特許請求の範囲第21項に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨
電気化学ルミネセンス現象の複数の測定を行う方法にして、
(a)第一および第二電気化学ルミネセンス波長での光を発出するようにそれぞれ電気化学的に誘引可能な、少なくとも第一および第二の電気化学ルミネセンス半量を含む試料を選定する段階、
(b)前記試料における光の発出を誘発するようにされた作動電極へ前記試料を露出させる段階、
(c)前記作動電極へ電圧信号を付加して前記第一および第二電気化学ルミネセンス波長での光の発出を誘発する段階、
(d)第一光検出装置を用いて前記第一電気化学ルミネセンス波長での光を検出する段階、および
(e)第二光検出装置を用いて前記第二電気化学ルミネセンス波長での光を検出する段階、
を包含する電気化学ルミネセンス現象の複数の測定を行う方法。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特表昭62-500663号公報(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例の記載事項の認定、本願発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定、相違点についての判断の一部(審決書8頁5~14行)は、いずれも認める。
審決は、本願発明と引用例発明との相違点の判断を誤り(取消事由1)、本願発明の有する顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 相違点の判断の誤り(取消事由1)
審決が、分析対象物から発出される複数の異なる波長の光について、波長毎に複数の光検出器を用いてそれぞれ検出することが、一般的な光検出における周知な技術であるとし、2つの検出器による同時測定の例として特開昭51-104389号公報(甲第7号証、以下「周知例1」という。)及び特開昭59-184862号公報(甲第8号証、以下「周知例2」という。)を示したこと(審決書8頁5~14行)は認めるが、電気化学ルミネセンス現象の測定においては、これまで本願発明の技術背景を含めて複数の光検出器を用いた例は何ら示されていない。
すなわち、周知例1は、管状反応器の中での化学ルミネセンスを測定するもので、必ずしも試料を同時測定する必要のないものであり、化学反応とその測定との関係において、電気化学ルミネセンスの測定の場合とは全く異なったものである。
また、周知例2は、本願発明の電気化学ルミネセンス測定におけるような同時の測定を必要とするものではなく、電気化学反応によるルミネセンスの測定と比較して、同時の測定とはいえない測定に関するものである。
したがって、これらの周知例は、化学ルミネセンス測定を開示したものであり、作動電極への電圧信号の付加による電気化学ルミネセンスの測定について開示したものではないので、二つの光検出器を用いているものの、電気化学ルミネセンス現象の測定に対しての周知例とはなり得ないのである。
しかも、本願発明の技術課題は、本願明細書に「この既知の電圧はしばしば第一電圧から第二電圧への電圧掃引の形をなし、第一電圧を経て第三電圧へ戻り、次いで再び第一電圧へ戻る。ECL反応の本質は、ECL測定プロセス中に試料が化学的に変化する、ということである。試料は電圧掃引から電圧掃引へと化学的に変化するのみならず、それはまた、単一の電圧掃引中に可成り変化する可能性がある。従って、第一ECL掃引の開始の際の試料の化学構造がユニークで、上記第一ECL掃引によって破壊される。各続行ECL掃引またはその一部分の間中、試料の化学構造は、その当初の化学構造と同じではない。」(甲第3号証13頁26行~14頁5行)と記載されるとおり、電気化学ルミネセンス測定において、各続行ECL掃引及びその掃引の一部分の間中においてすら、試料の化学構造がその当初の化学構造と同じではないことに対処しようとするものであり、この技術課題は原告が初めて発見した新規な技術課題である。
そして、本願発明は、この課題に基づいて、構成要件(d)「第一光検出装置を用いて第一電気化学ルミネセンス波長での光を検出する段階」、構成要件(e)「第二光検出装置を用いて第二電気化学ルミネセンス波長での光を検出する段階」を採用し、2つの測定を同時にしようとするものであって、単に複数の波長ということから直ちに短絡的に「複数の検出器」を採用したものではない。
したがって、審決が、「二つの光検出器を用いて各々のルミネッセンスを検出しようとすることは、当業者であれば格別な創意工夫を要することなく容易に想到し得る程度のことと認められる」(審決書8頁16~19行)と判断したことも誤りである。
2 顕著な作用効果の看過(取消事由2)
電気化学ルミネセンス測定においては、前記のとおり、掃引中に前回の掃引中と同じ電気化学ルミネセンス現象が生じるとは限らないことから、その測定において化学組成の変化による誤差を生じるものであるが、本願発明は、電気化学ルミネセンス現象の2つの測定を同時に行うことにより、この誤差を除去できるという顕著な作用効果を有している。
したがって、審決が、「この構成によりもたらされる効果も引用例記載のもの及び周知技術から予測できる程度のものであって、格別なものとは認められない。」(審決書8頁20行~9頁2行)と判断したことは誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は、正当であり、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。
1 取消事由1について
複数の波長を測定する場合、1つの検出器で兼用せずに、波長毎に複数の検出器を用いることは、周知例1及び2(甲第7及び第8号証)に記載されたとおりの周知技術であるから、この点に関する審決の判断(審決書8頁5~19行)に誤りはない。
また、試料が化学的に変化することは、化学反応を伴う測定プロセスでは一般的な現象であり、電気化学ルミネセンス測定プロセスに固有の問題ではないから、原告の主張するように、電気化学ルミネセンス測定に「固有の問題」であるとも、「新規な技術課題」であるとも認められない。
2 取消事由2について
審決が判断したとおり、検出器を2つ用いて同時測定を行うことは、周知手段であるから、2つの検出器を用いたことにより2つの波長を同時測定できるという効果は、引用例発明及び周知技術から、当業者が当然に予測できる程度のものであって、格別なものではない。
したがって、この点に関する審決の判断(審決書8頁20行~9頁2行)に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の判断の誤り)について
審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例の記載事項の認定、本願発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定並びに相違点についての判断の一部(審決書8頁5~14行)は、いずれも当事者間に争いがない。
そうすると、本願発明と引用例発明との唯一の相違点である、「本願発明では、異なる二つの波長の電気化学ルミネッセンス光を検出するのに、構成要件(d)、(e)に記載されているように、光検出器を二つ用いそれぞれのルミネッセンスを各々の光検出器で検出している」(同7頁16~20行)点について、「複数波長の光を検出するために一つの検出器で兼用せずに、波長毎に複数の検出器を用いようとすることは自然な考え方」(同8頁5~7行)であることを前提として、周知例1及び2(甲第7及び第8号証)に開示された「分析技術において、分析対象物から発出される複数の異なる波長の光(ルミネッセンス、蛍光)を検出するために、波長毎に複数の光検出器を用いてそれぞれ検出すること」(同8頁7~11行)という周知技術を考慮すれば、本願発明のように、異なる2つの波長の電気化学ルミネセンスを検出するために2つの光検出器を用いて各々のルミネセンスを検出しようとすることは、当業者であれば極めて容易に想到し得る程度のことと認められるから、この点に関する審決の判断(同8頁14~19行)に誤りはない。
原告は、周知例1が、管状反応器の中での化学ルミネセンスを測定するもので、本願発明のように必ずしも試料を同時測定する必要のないものであり、周知例2も、本願発明の電気化学ルミネセンス測定におけるような同時の測定を必要とするものではなく、これらの周知例は、化学ルミネセンス測定を開示したものであって、作動電極への電圧信号の付加による電気化学ルミネセンスの測定について開示したものではないから、電気化学ルミネセンス現象の測定に対しての周知例とはなり得ないと主張する。
しかし、本願発明の要旨を示す特許請求の範囲21項に、構成要件(d)「第一光検出装置を用いて電気化学ルミネ
センス波長での光を検出する段階」及び構成要件(e)「第二光検出装置を用いて第二電気化学ルミネセンス波長での光を検出する段階」と記載されているように、本願発明は、光検出器を2つ用いて異なる波長を各々の光検出器で検出するものであるが、この異なる波長を常に「同時測定」する旨の限定は、その要旨に記載も示唆もされておらず、本願発明が異なる波長を異なる時点で測定することを排斥しているものと認めることもできないから、原告の上記主張は、本願発明の要旨に基づかない(上記21項は、平成6年6月14日付手続補正書により追加されたものであるが、他の請求項と異なり、「同時測定」と限定しておらず、また、発明の名称にある「同時測定」から、同時測定を示唆していると認めることもできない。)ものであって、それ自体失当といわなければならない。
また、周知例1及び2に開示された、「分析技術において、分析対象物から発出される複数の異なる波長の光を検出するために、波長毎に複数の光検出器を用いてそれぞれ検出する」という極めて一般的な周知技術を、電気化学ルミネセンスでの光の波長測定に用い得ないとする技術的根拠も皆無であるから、この点においても原告の上記主張を採用することはできない。
また、原告は、本願発明が、電気化学ルミネセンス測定において、各続行ECL掃引及びその掃引の一部分の間中においてすら、試料の化学構造がその当初の化学構造と同じではないことに対処しようとするものであり、この技術課題は原告が初めて発見した新規な技術課題であると主張する。
しかし、化学反応は、物質がそれ自身あるいは他の物質との相互作用によって他の物質に変化する現象であり、当該反応が、温度、圧力、濃度等の反応条件により影響を受けることは、当業者にとっての技術常識であるから、化学反応を含む測定を連続して複数回行う場合、反応物である試料も変化し、濃度等の反応条件が同一とならないことも、自明の技術事項であり、そのように反応条件の変化する測定プロセスでは、試料自体の化学反応を考慮してこれに対処しなければならないことも明らかである。
そうすると、電気化学ルミネセンスを用いた測定が、当該プロセス中に化学反応を含むものである以上、当業者が、当該プロセス中に試料が化学的に変化するものと認識し、これを技術課題として対処したうえ測定を行おうとすることも、極めて自明なことといわなければならない。
したがって、試料の化学構造の変化の発見を、新規な技術課題の発見とする原告の主張は、到底採用することができない。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について
原告は、電気化学ルミネセンス測定において、掃引中に前回の掃引中と同じ電気化学ルミネセンス現象が生じるとは限らないことから、その測定において化学組成の変化による誤差を生じるものであり、本願発明が、電気化学ルミネセンス現象の2つの測定を同時に行うことにより、この誤差を除去できるという顕著な作用効果を有していると主張する。
しかし、前示のとおり、本願発明が、光検出器を2つ用いて異なる波長を「同時測定」することに限定する旨の原告の主張は、本願発明の要旨に基づかないものであり、そのことによる効果も、本願発明に一定の限定を加えた場合に達成されるものであって、その構成により常に生ずるものとはいえないから、原告の主張は、それ自体失当なものといわなければならない。しかも、「複数の分析対象物の各々を検出するための電気化学ルミネッセンス現象の複数の測定を行う方法」(審決書6頁5~6行)である引用例発明において、「分析対象物から発出される複数の異なる波長の光を検出するために、波長毎に複数の光検出器を用いてそれぞれ検出する」という前示の周知の構成を採用することにより、原告の主張する、測定の際の化学組成の変化による誤差を除去できるとの効果が達成できるであろうことも、当業者の予測できる範囲内のものといえる。
したがって、審決が、「この構成によりもたらされる効果も引用例記載のもの及び周知技術から予測できる程度のものであって、格別なものとは認められない。」(審決書8頁20行~9頁2行)と判断したことにも誤りはない。
3 以上のとおり、原告主張の取消事由には、いずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。
よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担及び付加期間の指定につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成6年審判第21620号
審決
アメリカ合衆国 20852 メリーランド州、ロックビル、イースト ジェファーソン ストリート 1530
請求人 イゲン、インコーポレーテッド
東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル331~340
代理人弁理士 浅村皓
東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル331~340
代理人弁理士 浅村肇
東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビルヂング331 浅村内外特許事務所
代理人弁理士 山本貴和
平成1年特許願第505273号「電気化学ルミネセンス現象の複数の同時測定を行う装置および方法」拒絶査定に対する審判事件〔(平成1年11月2日国際公開WO89/10552、平成3年9月5日国内公表特許出願公表平3-504043号)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
1.手続の経緯、本願発明の要旨
本願は、1989年4月28日(優先権主張1988年4月28日、米国)を国際出願日とする出願であって、その発明の要旨は、平成7年1月25日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項から第21項に記載されたとおりのものと認められるところ、その第21項には次のように記載されている。
「電気化学ルミネセンス現象の複数の測定を行う方法にして、
(a)第一および第二電気化学ルミネセンス波長での光を発出するようにそれぞれ電気化学的に誘引可能な、少なくとも第一および第二の電気化学ルミネセンス半量を含む試料を選定する段階、
(b)前記試料における光の発出を誘発すうようにされた作動電極へ前記試料を露出させる段階、
(c)前記作動電極へ電圧信号を付加して前記第一および第二電気化学ルミネセンス波長での光の発出を誘発する段階、
(d)第一光検出装置を用いて前記第一電気化学ルミネセンス波長での光を検出する段階、および
(e)第二光検出装置を用いて前記第二電気化学ルミネセンス波長での光を検出する段階、
を包含する電気化学ルミネセンス現象の複数の測定を行う方法。」
(以下、この第21項に記載された発明を、単に「本願発明」という。)
そして、この発明では、要すれば電気化学ルミネッセンス反応を起こす少なくとも2種の分析対象物から当該反応の結果発する異なる2種以上の波長の電気化学ルミネッセンスを検出して、分析対象物の各々の検出を可能とするものである。
2.引用例
これに対し、原査定の拒絶理由で引用された、特表昭62-500663号公報(以下、「引用例」という。)には、次の記載(1)、(2)がある。
(1)「本発明は更に、同一混合物同一混合物中に存在する異なる化学種に選択的に結合する1種類以上の対象分析物の存在を測定する方法に係わる。方法は、反応(試薬)混合物を形成させる適当な条件下で分析物と化学種とを接触させる。反応混合物を化学エネルギ又は電気化学エネルギに曝露することによって化学種を電磁放射線を放出すべく誘導し、放出された異なる波長の電磁放射線を検出して対象分析物の各々の存在を決定する。
混合物中の2種以上の化学種の存在を測定するこれらの方法は、ルテニウム含有及びオスミウム含有の発光ラベルを測定するための前記の全てのケースに適用できる。しかし乍ら、かかる具体例では同一サンプル中に同時に存在する2種以上の異なる物質を測定し得る。」
(第18頁右上欄1行~12行)
(2)「実施例Ⅷ ルテニウム標識・子ウシ血清アルブミン(BSA)の電気化学発光(ECL)検知
光学的に平坦な底部を有する1区画タイプのセル(30ml)中でECL測定を行った。測定電極はガラス状炭素で、対する電極はプラチナネットとし、疑似対照電極は銀ワイヤで行った。光強度の測定は、-2.0V(Agワイヤに対して)の電位をかけ、光増強管で発光を検知し、2つに対して得られる信号をBascom-Turner Recorderで統合した。」
(第20頁左上欄11行~19行)
ここで、上記(1)中の「異なる波長の電磁放射線を検出して対象分析物の各々の存在を決定する」とは、その反応の作用原理から「複数波長の電気化学ルミネッセンスを検出して対象分析物の各々の存在を決定する」ことに他ならない。
また、上記(2)において、「測定電極」は本願発明の「作動電極」に相当し、この電極には電気化学ルミネッセンス現象が生起されるための電圧が当然に付加されているものと認められる。
従って引用例には、
「複数の分析対象物の各々を検出するための電気化学ルミネッセンス現象の複数の測定を行う方法であって、
(A)異なる分析対象物に選択的に結合して電気化学的反応により、複数の電気化学ルミネッセンス波長の光を発出するような複数の化学種を含む試料を選定し、
(B)この試料を作動電極に露出させ、
(C)作動電極へ電圧を付加して異なる複数の波長の電気化学ルミネッセンスの発出を誘発させ、
(D)これら異なる複数の波長の電気化学ルミネッセンス光を光検出器により検出する方法。」
が記載されているものと認める。
3.本願発明と引用例との対比
本願発明と上記引用例記載のものとを比較する。本願発明における構成要件中(a)の「電気化学的に誘引可能な・・・電気化学ルミネッセンス半量」とは「ある対象物(他方)と選択的に電気化学反応を起こす結果ルミネッセンスを発出するような一方の化学種」を意味するから、本願発明の構成要件(a)は引用例の(A)に相当する。
そして、本願発明の構成要件(b)、(c)はそれぞれ引用例の(B)、(C)に相当することも明らかである。
してみると、本願発明と引用例記載のものとは、「複数の分析対象物の各々を検出するための電気化学ルミネッセンス現象の複数の測定を行う方法であって、構成要件(a、A)、(b、B)、(c、C)を備えたもの」である点で一致し、以下の点でのみ相違する。
本願発明では、異なる二つの波長の電気化学ルミネッセンス光を検出するのに、構成要件(d)、(e)に記載されているように、光検出器を二つ用いそれぞれのルミネッセンスを各々の光検出器で検出しているのに対し、引用例では光検出器の数について特段の明示がない点。
4.当審の判断
そこで、上記相違点につき検討する。
複数波長の光を検出するために一つの検出器で兼用せずに、波長毎に複数の検出器を用いようとすることは自然な考え方であり、現に、分析技術において、分析対象物から発出される複数の異なる波長の光(ルミネッセンス、蛍光)を検出するために、波長毎に複数の光検出器を用いてそれぞれ検出することは周知な技術である(必要ならば、原査定の拒絶理由で引用された特開昭51-104389号公報、特開昭59-184862号公報参照)から、本願発明のように、異なる二つの波長の電気化学ルミネッセンスを検出するために二つの光検出器を用いて各々のルミネッセンスを検出しようとすることは、当業者であれば格別な創意工夫を要することなく容易に想到し得る程度のことと認められる。
そして、この構成によりもたらされる効果も引用例記載のもの及び周知技術から予測できる程度のものであって、格別なものとは認められない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載されたもの及び前記周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成8年12月19日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
請求人被請求人のため出訴期間として90日を附加する。